黄色い線の内側までお下がりください
「きっとまたここに来ると思う」
下げた頭の上からあざみの声が聞こえたが、顔を上げるとそこにあざみの姿は無い。
富多子の視線の先には今にも雨が降りそうに灰色く色のついた雲、顔を撫でる風は生暖かく、決して気分のいいものじゃない。
誰もいないホームは横倒しにした墓石のように思えてならない。
左右を見回すが、どこにもあざみの姿はなかった。
さっきまでそこにいたはずなのに、跡形もなく、気配すらも無い。
生唾をごくりと飲んだが、喉が渇ききっていてうまく喉を通らなかった。
足下から風が吹き上げた。
足首から順に撫で上がるように上がってきた風は、制服のスカートを焦らすように揺らした。
長い髪の毛の先をさするように抜けた風は、雨の降る前の生臭い臭いを緩やかに漂わせ、行くべき場所へと流れていった。
最後にもう一度前後左右を見回した。