黄色い線の内側までお下がりください
「わたしの......」
腹をまさぐるが不自然にへこみ、背骨がつかめそうなくらいぺったんこだ。肉も無ければ温かみも無い。そこに収まっているはずの胃袋はどこにも無かった。
線路の脇やホーム下の待避所、ホーム上まで隅々と探したが、どこにもそれらしきものは見当たらない。かけらも見つからない。
死んだばかりの富多子は大梯のことが思い出せず、ソレがどこにあるのかすら分からなかった。
ホームに上がろうとする亡霊たちは富多子をどこまでも追いかけてくる。
なぜ追われているのか分からない。
この黒い亡霊がなんなのかすら理解できない。
その中に見知った顔などいるはずもなかった。ただ、この光景は以前どこかで何回も見ていることを断片的に思い出した。
「......ああ、そうか。そういうことか」
『ナクシモノ』を探すのをやめた富多子はベンチに腰掛け、自分を呼ぶ無数の亡霊たちを虫けらでも見るような目で眺め、ほくそ笑む。
「私はあいつとは違うから、あんたたちを満足させられる。こうなることを望んでいたし、ここにこうして巣食い、恐怖に怯える人々の顔を見ていたいの。やっとこれたところだから。だから...」
ぎしぎしと音が聞こえるようにぎこちなく立ち上がり、こっちを向いて真っ直ぐに立った。
その顔はまだ綺麗だ。