黄色い線の内側までお下がりください
その人は大学生で、富多子のバイト先の先輩だということだ。
宮前タイラ。
タイラを迎えにバイト先に来ていた彼氏と富多子が店先で楽しそうに話しているところをたまたま見てしまったタイラがやきもちをやき、嫌がらせをしてきたという。
高校にまで嘘でかためた話を持って来て、いろいろな人を巻き込んでの嫌がらせになったということだ。
「ぜんぜんそんなことないんです。ただの宮前さんの勘違いなんです。何回もそう言ったし、彼氏さんにも話をしてもらったのに、信じてくれないんです」
「そっか」
「彼氏さんはきっと宮前さんがそんなことするなんて思っていないと思うし、考えてもいないと思います。でも・・・」
わっと泣き出してその後は話にならなかった。
「すぐに楽にしてあげるから。私に任せて」
「......本当に楽になるんですね? この状況から抜け出せるんですね?」
「本当。私は嘘は言わない」
「でもどうやって?」
にこりと笑ったあざみはおもむろに視線を移した。
あざみが向いた方に顔を向けると、そこには墓地の案内の看板。
一度下を向いて目を閉じ、深呼吸をする。
見上げた先には『遊楽霊園』の看板。
どうして看板を見たのか、富多子には分からない。
そして、ベンチには富多子以外誰もいない。
あざみの姿は忽然と消え、暑苦しい空気だけがそこに残されていた。