黄色い線の内側までお下がりください
「......お金は...ないです」
消え入りそうな声で訴える。
「じゃ、なんのために呼んだのよ!」
罵声を浴びせながら富多子の持っている鞄に手を伸ばした。
「こんにちは」
伸ばされた手を握ったのは、あざみだ。
宮前タイラに負けないくらい綺麗な顔で微笑んだ。
目の前にいるあざみを見て、宮前タイラは手を振りほどき、飛び退いた。
振りほどいた手は、自分の真っ白く綺麗なワンピースで拭く。
「やだ、ちょっとなにそれ。もう! なんか変なものにでも触られた感じねそれ。あからさまに手を拭くなんて、失礼だよ」
笑いながら言うあざみに、顔がひきつる。
「久しぶりなんだから少し話をしない?」
あざみは自分が座っているベンチの横をとんとんと叩いた。
飛び退いたタイラの横には富多子がいるが、富多子は下を向いたまま目を合わせないし、何も言わない。
タイラは自分の体が動かなくなっていくのを感じた。