黄色い線の内側までお下がりください
何も言えない宮前タイラは無言だが、足だけは彼女の気持ちとはうらはらにあざみの元へと近づいて行く。
富多子に助けて貰おうと彼女の方を見るが、富多子はやはり下を向いたまま動く気配は無い。
「さぁ。こっちへ来て」
真面目な顔をするあざみに、真っ白な顔になる宮前タイラはいつの間にかあざみのとなりに座るかたちとなった。
「久しぶりだねタイラちゃん、どう? 元気?」
「あんたどうしてここに? だって」
「ふふ。タイラちゃんを待ってたんだよ。いつかきっとここに来るって分かってたから」
真っ青に変わったタイラの唇は、先ほどまでグロスで輝いていた輝きは跡形もない。
「長かったなぁ。今日まで」
「嘘でしょ。やめてよ」
逃げようにも、あざみはしっかりとタイラの手を取っているので逃げることが出来ない。あざみの手の冷たさが、存在しない物だということを証明しているようだ。
「どういうのがいい?」
「なに・・・が」声が震えている。
「うーん、そうだなぁ、一気に逝くのがいい? それとも・・・苦しむ?」
「何言って・・・」
「半分になるってのもいいね。あ、頭だけ落とすってのもいいかも」
「止めてよだってあんた」
「そうかぁ、じゃぁ・・・」
あざみはおもむろに立ち上がると伝言掲示板に目を向ける。
「快速が来るから」
くるりと振り返り、宮前タイラの顔を見てにっこりと笑う。
「よかったねタイラちゃん。一気に逝けるパターンみたい」