黄色い線の内側までお下がりください
【ゴ】


【ゴ】 新町 桜


 目覚めると玄関でうつぶせになっていた。

 桜は飛び起きて足下にあるはずの新聞紙にくるまれた首を探した。

 何も無い。

 玄関には自分の靴とサンダルが無造作に置いてあるだけだ。

 ドアに手を当てて押す。

 昨夜は絶対に開かなかったドアはすんなりと開き、

 蒸し暑い空気がここぞとばかりに流れ込んできた。

 玄関を全開にして、ストッパーで止める。

 まだ日の昇りきらない夏の朝は、涼しくて綺麗な空気で辺り一帯は潤っていた。

 暑い空気で涼しすぎる部屋の温度が快適になる。

 寝室の戸を開けてみるが、取り立てて変わった様子は無い。

 エアコンは付きっぱなしでひんやりとした風が吹き抜ける。

「夢? だったの?」 

 昨日のあれは夢なのか現実なのかの区別がつかなかった。

 現実と夢との間で踊らされているような、そんな不思議な感覚。

 宮前タイラに電話をしてみたが、そう、繋がることは永遠に無い。
                                                                                                      

                                 
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