黄色い線の内側までお下がりください
昼間の駅に人がいないなんてことはありえないんだけど、
今日に限っては誰もいない。
うるさく鳴く蝉の声とじりじりと焼け付き始める太陽に温められるアスファルト。
駅構内は静かで、そこだけ現実から突き放されたように冷たい。
定期で改札を抜け、あのベンチへと向かう。
目の前にはあの墓地の絵の看板があるはずだ。
たぶん、そこだ。
階段を上がり、ホーム上に出る。
生暖かい風が桜を頭から包み込む。
深呼吸し、一歩前へ蹴り出す。
ベンチには誰もいない。
誰も座っていないけど何かがいそうな気配はした。
注意深く周りを確認するが、桜以外他に人はいなかった。
線路の方へ足を向ける。
茶色い枕木が永遠と続く。カゲロウが立ち始める茶色いレールを見ていると、あの時の記憶が鮮明に思い出された。
ここできっとタイラが死んだ。
たぶん、そうだ。
用賀もここで死んだ。
繋がってる。
だから、やられるなら次は私だ。
半ば確信している桜は恐怖よりも怒りの感情の方が大きく心を支配していた。