黄色い線の内側までお下がりください
なんで? どうしてタイラなそうなった? 線路を見ながら考える桜の耳にアナウンスが入る。
富多子が後ずさる。
桜はベンチの方まで戻り、そこに腰掛けた。
汗が頬をつたい顎にたまり、落ちる。
電車が速度を落としてゆっくりと駅に入って来た。
警笛は鳴らさなかった。
「桜さん・・・電車、乗らないんですか?」
「え? あ・・・あぁ。そう・・・電車」
ドアが閉まる合図が聞こえると、思い出したように腰を上げて足早に電車に乗り込んだ。
ちょっと待って。
なんであの子、私の名前知ってたの? しかも私、別にこの電車に乗らなくても良かったんじゃない? 取り立てて向かう場所もないし、そもそもがこの駅に用事があって来たわけだ。
遅い。
電車が動き出してからその疑問にぶち当たるが、既に降りることは出来ない。
ベンチの横に立っている富多子は相変わらず下を向いたままで顔が見えない。