黄色い線の内側までお下がりください
電車が通過した後、富多子はのんびりと顔を上げた。
その顔にはぬめっとした笑顔。
「よかったですね。今日じゃなくて」
独り言のようで、そうではない。
見えない誰かと話をしているようにすら見える。
「いつなんですかそれって?・・・はい? まだ分からない? はぁ、そうですか」
「え? 見たいかって? あぁ・・・・はぁ・・・そりゃぁ」
『一回見ると癖になるでしょ? 今度はどうやって料理しようか。あなた、好きだからまた見せてあげる』
声は富多子にしか聞こえない。
自分の内側から発せられる声なのか、はたまたそこに誰かがいて何かを言っているのか。
富多子のとろんとした笑みだけがそれを答えてくれる。