黄色い線の内側までお下がりください
「だからほら、さっさと別れるって言いなよ。それで全部うまくいく」
「...言えないよ」
「そもそもが、用賀はあんたなんかとはつり合わない人だよ。分かってる?」
「そんなこと...」
「どっちかにしてもらえる? 私にボコられるか、自ら引くか。簡単でしょ?」
「その選択めっちゃウケルんですけど」
話に入って来たのはタイラ。桜の理不尽な選択肢に思わず笑って口をはさんだ。
「てかさ桜、そんな面倒くさいことしなくても、こいつさえいなくなれば話は早いんじゃね?」
タイラは桜に目配せして意味深に笑って、その真意を暗黙の了解で受け取らせた。
「あぁ...なるほど」
桜はにたつくと、伝言掲示板に目をやる。
「ふーん、快速か」
あざみはその言葉を聞いて伝言掲示板に目をやり、視線を目の前にいる桜に戻す。
そして自分は今線路を背にしていることを再確認した。
「ちょっと...待ってよ」
そんなことはありえないと思うが、多少、怖い。
1歩前に、桜の方、ホームの中程に戻ろうと足を踏み出したところで桜がそれを阻止した。
「桜...ちゃん?」
何も言わずにあざみの腕を掴んで笑う桜の顔は意地悪に歪んでいて、人の不幸を心から楽しんでいるようにも見える。