黄色い線の内側までお下がりください
「嘘でしょ」
「本気だったら?」
「ありえないってこれは。分かってよ。用賀と私はちゃんと付き合ってるし、本気なんだよ。それにだって桜ちゃん一回用賀に......ふ、ふられてるよね」
最後の方は語気を弱めた。
「うるさい!」
肩を押した。
あざみはせっかく1歩前に出した足を元の位置へ戻すはめになった。
「うっそ、桜ふられてたの? じゃ無理なんじゃね?」
くすりと笑うタイラをあえて無視してあざみと向き合った。
「さ、早く決断しないとそろそろ電車来るけど?」
「ほんとにやめて。これ冗談になってないよ」
いい加減にしてと、体を階段の方に向け勢いよく...
「ダメ」
それを制したのはタイラだ。髪を綺麗になびかせながらあざみの腕を取る。
「やめて!」
「あんたが早く決めればそれで話は済むの! 簡単でしょ? 別れるってそう決めれば終わることなんだから」
桜が携帯電話をあざみに渡し、電話をかけるように強く出る。
「ほら」
「こんなこと間違ってるって」
「どんなことが?」
意地悪に笑う二人には何を言っても無駄なように思われた。
なんでこんなことをするのか理解に苦しむが、深く考えている時間は無い。