黄色い線の内側までお下がりください

 あざみ、桜、タイラが線路に落ちたバッグを無言で見つめ続け、誰一人ことばを発するものはいなかった。

「どうしよう、あのバッグ、用賀に貰った大事なものなのに......」

 ぼそりと言った言葉はしっかりと桜の耳に届いた。

 その言葉に苛立ちを感じた桜はあざみを睨み、落ちたバッグをも睨んだ。



「取りに行けばいいじゃん」

「...何言ってんの。できるわけないじゃん。電車来ちゃうもん」

「まだ電車来ないし、大丈夫じゃない?」

 意地悪に言う桜の目は、本気だ。

 さすがにタイラは何も言うことができない。

「ほら」

 背中を軽く押す桜は、大事なものなら取りに行って来なよ。まだ電車だって来てないから。と優しく言う。
                                
「バッグを取ったら、私たちが引き上げてあげるから」

 そんな言葉をかけられるとは思っていなかったあざみはびっくりして振り返る。


「ね」


 笑っている桜はバッグを指さした。


「ほら。バッグ、ぼろぼろになっちゃってもいいの? 用賀に貰った大事なものなんじゃないの?」

「でも...怖いよ」

 あざみはもう一度線路に落ちたバッグに目をやった。

「このままじゃあのバッグ、ダメになっちゃうね。半分に裂かれて使えなくなっちゃうね」

 桜が追い打ちをかけた。

 
        
       
    
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