黄色い線の内側までお下がりください

 線路に落ちているバッグを見て、電車がまだ来ないことを確認した。


「ほんとに? ほんとにバッグ取ったら上げてくれる?」

「こんな時に冗談が言える? てか置き去りにするとかそんなことできないでしょ、どう考えても」

 あざみの背中を強めに押す。

「ほら」

 黄色い線よりも足が1歩線路側に出た。


 生暖かい風が頬を撫で、腕、腰、脚を舐めるように、あざみを見極めるように吹き抜ける。


 浅い呼吸を一度すると、ホームに両手をつき、腰を下ろし、脚をホームの下に投げだした。



 小さくジャンプして、線路に着地する。



 じゃりっと砂を踏む音と感覚が足から伝わった。バッグの所まで急いで走り、しっかりとバッグを掴み、底についた土を払う。



「え? なに?」


 バッグを持ち上げた時、バッグの下に何か青いものを見た。
 










 紫陽花だ。






 



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