黄色い線の内側までお下がりください
バッグの下に紫陽花が咲いている。
こんなところに紫陽花? 前からあったっけ?
その紫陽花は真っ青で、とても魅力的な輝きを放っている。
冷たく青く不気味に輝く紫陽花は、光りを浴びたことのないような、
もしくは光りを全て吸収して、花びらの中に閉じ込めたように、
自分の内側に全てをひきずり込もうとしているように妖しくあざみを誘惑した。
ホーム上で誰かが叫んでいるのが視界の片隅に入ってはいるが、
その紫陽花に心奪われ、まるで音は聞こえない。
無音。
ホーム上から手を伸ばし、連れ戻そうとする人たちがいるのが分かるが、
目が離せない。
『あざみ!』
用賀の声が聞こえ、意識を戻した。
けたたましい警笛が耳に届く。
うるさくて顔をしかめた。
強風が髪を後ろになびかせる。
心臓が止まる思いがした。