黄色い線の内側までお下がりください
体は言うことを聞かず、その場に横倒しになるように倒れた。
これ以上開いたら目がこぼれ落ちるというところまで目を見開き、
線路を枕にするように頭を乗せた。涙は止めどなく溢れる。
口元は力無く開かれて、よだれと泡がだらしなく流れる。
既に自分の意思とは真逆な行動を取る体を支配することはできなかった。
バッグだけはしっかりと胸に抱き、体を小さく折り曲げた。
警笛を間近で聞いて、眉を寄せた。
目の前には無表情の電車がせまる。
『だいじょうぶ。すぐにおわる』
べったりと寄り添う真っ青な男はあざみの体を後ろから覆う。
電車の下の方には真っ赤な血のようなものがべっとりと張り付き、無数の手形がそこに見えた。
生臭い。
あざみが最後に嗅いだ臭いは、無数の人間の血の混じった臭い。
線路脇に、待避所の中には黒い人の影、亡霊がびっしりと詰まっていて、あざみの最期を見届けている。
電車が自分にぶつかる前に、いや、顔をひきつぶす前に、あざみは垂れ流す涙で視界をかすませながら、胸に抱えたバッグを力の限り更に強く抱きしめ、目をぎゅっと閉じた。
心の中で小さく用賀の名前を呼んだ。
口はまだ動くが、声は出なかった。
目を閉じた時に流れ出た一筋の涙が頬を伝いバッグに染み込むが、その時には既に恐怖心は失っていた。
脳みそが生きた体に最後に送り出す指令は、
恐怖を緩和する薬だ。
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気が付いた時、あざみはホーム上に設置されているベンチに座っていた。
辺りは既に真っ暗で、なんの音も聞こえない。
風も無く、臭いも無い。あるのは、無だ。
どうしてここにいるのか分からない。
ただただそこに、じっと座っていた。