黄色い線の内側までお下がりください
ベンチにどかっと座って脚を組む。
ポケットからタバコを出して、火を付けた。
肺にゆっくりと煙を入れ、時間をかけて吐き出した。
「タバコは体に悪いよ」
後ろから聞こえた声に反応するが、白々しく無視し、タバコを吸い続けた。
「桜さん」
桜の横まで来て声をかけ、馴れ馴れしく肩に手をおいた。
「その手、邪魔」
「すいません、つい」
引っ込めた手を胸の前で組んで頭を下げたのは、富多子だ。
「あんたに用事は無いよ」
タバコをホームに投げ、サンダルのつま先部分でじゅっと消す。
「あの......帰った方がいいです」
「帰らない」
「でも...」
「あんたはなんでここにいるわけ?」
「.........それは、その」
「来るように言われたんじゃないの?」
「.........」
「あの女に言われたんでしょう? ほら、あいつに」
桜が指さした先には、あざみの姿。
ホームの一番端っこに表情無く立ってこっちを眺めている藤が丘あざみがそこにいた。