黄色い線の内側までお下がりください
「用賀! 助けてお願い!」
「・・・さくら?」
「体が動かない! 行きたくない!」
「全部おまえのせいだ」
用賀の顔つきが変わった。
頭のてっぺんから真っ黒く焦げ始め、髪の毛が焼ける臭いがして、
頭の肉が削げ始めた。
鼻や頬の肉を落としながら手を伸ばし、
不自然に曲がった足をひきずるように歩き、ホームの下に群がるたくさんの黒い人の影の中に混じり込む。
既に高津用賀の顔には感情が無い。
一つのことにしか頭にないのか。
桜の足首を掴もうと必死で手を伸ばしている。
あざみから奪い取って自分の彼氏にした高津用賀のそんな姿にショックを隠しきれない。
絶望。
「用賀・・・」
涙が頬をつたい、顎先から服に落ちた。
体が震えて何もできない。
「おいで」
あざみは紫陽花の上に立ったままで両腕を桜に伸ばす。
「・・・いや・・・いやだ・・・」
「おいで」
両腕を伸ばし続ける。
あと1歩踏み出したら、無数に伸ばされている黒い手に捕まってしまう。
ここから出たら自分は助からないと直感で思った。