黄色い線の内側までお下がりください
警笛がけたたましく鳴らされはじめた。
電車が入って来た方を見て目を疑った。
両腕を目一杯伸ばし、線路上を歩く人の足首を掴もうと手を伸ばしている黒い影が、
ホームの端から端までびっしりと、いた。
電車が入ってきた。
黒い影は電車に跳ね飛ばされながら、ホームの下へと吸い込まれるように姿を消していく。
警笛は鳴らされっぱなしになる。
「桜ちゃん、早くおいで」
「やだ......だって......」
言葉は最後まで言うことができなかった。
言い終わる前に、誰かに背中を押され、
気付けば両腕を伸ばして突っ立っているあざみの腕の中にいた。
「やっと来た」
くすりと笑うと震える桜の腕を取り、強引に引っ張る。
ホーム上に目を向けると、そこには目を大きく見開き、真一文字に結んだ唇、真顔で桜を見続ける富多子の姿があった。
こいつだ。
こいつが私を押した。
すぐに分かるが、もうどうすることもできない。
悔しさと怒りが桜の体に広がった。