黄色い線の内側までお下がりください
「ここ」
耳元で大きく聞こえ始める警笛を無視するあざみは、
無造作に桜を線路上に寝かせた。
「・・・おねがい......やめて」
涙が止めどなく溢れ、鼻水によだれ、泡までも垂れ流す。
「ほら」
指差す先には無機質な電車の顔。
体に触れている線路から電車の振動が体中に伝わる。
体の中心の方から恐怖が沸き上がり、心臓は血液を体中に激しく回す。
無数の黒い影は電車にぶつかりながら線路下に吸い込まれていく。
「用賀・・・たすけ......て」
「......ねぇ、桜ちゃん。だから用賀は私の彼氏だってことがまだ分からない?」
ホームの下に吸い込まれていった用賀を見て桜がすがる思いで、声を出したが、それは虚しくあざみによって打ち破られた。
「ホームに電車が入る時になんで警笛を鳴らすか知ってる?」
「.........やめて」
「鳴らしたり鳴らさなかったりするでしょう?」
「.........おねがいだから」
「...見えてるんだよ」
桜の耳にかすかに届く警笛音。
しっかり聞こえるあざみの声。
四つん這いになった目の前には、
真っ青な紫陽花が咲いている。
不自然な咲き方をする紫陽花に見入る。