「約束」涙の君を【完】
びっくりして、一段上におしりをついて、
のけぞって拒否している私を見て、
男の子はセミを持ってポカンとしていた。
「セミ苦手...っていうか、虫全部嫌い...
どっかにやってよ」
「なんだよ、踏んづけるなっていうから、
てっきりセミを心配してんのかと思った。
セミがこえーのか」
私は、勢い良く首を縦に振った。
男の子はセミをじっくり観察してから、
石段の脇の草むらにそっとセミを置いた。
「もう、だめかもな、こいつら」
私は手すりに掴まって立ち上がった。
「動かない?」
「飛ぶほどの力はないな...」
男の子は少し悲しげだったけど、
私はこれで帰れると正直ホッとしていた。
「歩けんのかよ」
私は手すりに掴まって石段を下りてみた。
「ちょっと痛いけど、大丈夫。下りれそう」
「なんだよ」と男の子は私をおいて石段を下りだした。
おばあちゃんの家に毎年泊まっているけど、
初めて自分と同じ年ぐらいの地元の子と出会った。
ちょっと嬉しかった。
いや、すごく嬉しかった。
「ちょっと!や、やっぱ痛い!!」
今度は私から下にいる男の子に手を伸ばした。
男の子は振り返ると、一度目をそらして、
「しょーがねーなー」と、
また私のところに上ってきた。
そして、私の手をぎゅっと握ると、
チラッとチラッと私を見て、
でもその表情はなんだか不貞腐れていて...
ゆっくりゆっくりと、私に合わせて下りてくれた。