「約束」涙の君を【完】
石段を下り、山から出ると雨を感じた。
「おーい!優衣ー!」
おじいちゃんの声がして振り向くと、
家から山に続いている小道に、おじいちゃんがいた。
おじいちゃんは傘をさし、手にはもう一本傘を持って、
こちらにゆっくりと歩いていた。
男の子は、バッと繋いだ手を離した。
「お前、そこんちの?」
「うん。孫。
東京からこっちに、夏休み中だけ泊まってる」
「ふーん...」
なんだか変な返事に、男の子の顔を覗き込んだ。
山の中よりも少し明るい場所で見た横顔は、
やっぱり目鼻立ちの整った綺麗な顔だった。
でも頬は泥で汚れていて、
雨の雫がポタポタと流れては、
腕で拭っていた。
私よりも背が小さいから、年下かな...
「あぁ...びしょびしょだなー。もっと早く、
じいちゃんが気づいてやればよかったなぁ」
おじいちゃんが、私の元まで来て、
もう一本の傘を渡しながらそう言った。
「おぉ、お前は確か...最近こっちに越してきた、
偉い大学の先生んとこの子だろ?」
男の子は、おじいちゃんの言葉に下を向いた。
「あそこの林をばっさり切って作った研究所にいんだろ?」
「切ったんじゃない!」
男の子はそう叫んで、また下を向いた。
その横顔は、唇を噛み締め、とても悲しそうな、
苦しそうな顔に見えた。
さらに雨が強くなり、下を向いて雨に打たれている男の子に、
私は思わず、傘を開いて男の子に差し出した。
「これ、使って」