「約束」涙の君を【完】
「林の木…」
そういえば、昨日おじいちゃんもそんな事を言ってたな…
「元々、林は神社の総代さんの土地で、
そこを、東京の大学が買い取って。
買い取ったと思ったら、木々をバサーッと切り倒して。
大学の建物は小さくてな。
学生さんたちが時々研修にくるところで、
普段は先生たちがいる研究所だって。
なんの研究だか知らんが、
なんで、あんなに広く、
林の木を切らなくちゃなんなかったのかって、
みんな文句ばーっか言ってる。
だからって子供には関係ないのになぁ。
いい子だったよ…
東京からこっちに越してきた時に、ちゃんと親子で一軒一軒挨拶に回ってて、
きれいな顔の男の子で、ちゃんとしっかり挨拶もできて、えらいなぁって。
あの子、父親しかいないみたいだしな。
周りが協力してやんないと…
ほれ、やっぱりいた。
あそこ、あの子だろ?」
畑に着くと、おばあちゃんが、下を見渡して、
遠くに見える川を指差した。
「おばあちゃん、よく見えるね…
私には、なんだかよく見えないよ」
目を凝らして良く見ても、なんとなく人がいるかな…ぐらいしかわからなかった。
「そこの坂を真っ直ぐ下りていけば、川にあたるから。行ってみな」
私は頷くと、坂道を下り始めた。
少しずつ川に近づいて、一度川が見えなくなって、
また、下って川が見えて…
そしてやっとはっきり男の子が見えるまで近づいた。
本当だ、昨日の子だ。
男の子は網を持って、幅10mないぐらいの川に膝まで入っていた。
私はゆっくりと歩いて、
男の子のそばの川岸にしゃがんだ。
そして川原に置いてある荷物に気づいた。
水筒と、数匹の小魚が泳いでいる飼育ケース、
それと、
昨日の傘。
その時、川を見つめていた男の子が顔を上げ、
私と目が合った。