「約束」涙の君を【完】
だって、
いろいろあっても、
大切なたったひとりのお兄ちゃんだから。
「お母さんは、昔っから、弱いところがあるから、
優衣が支えてあげてな...
お兄ちゃんのこともあるし、
帰ってこないお父さんのこともあるだろうしな...」
そう言っておばあちゃんは、目を開けた。
「うん、わかった」
もしかして、おばあちゃんはいつも毎月、
うちのことを心配してお参りしてくれてたのかな...
神社にあるベンチに座って、上を見上げると、
木々が開けている部分から、少し赤みを帯びた空が見えた。
「さあて。帰るか。今度は下りだ」
おばあちゃんはゆっくりと立ち上がると、
また一度伸びをして、
石段の方へと歩き出した。
緑の木々の合間から見える夕焼け空、
ひんやりとした緑のトンネル
なんとも不思議な鈴の音
まっすぐに伸びた苔の生えた石段
初めて田舎で「素敵だ...」と思える場所を、
見つけたような気がした。
「私、この神社...好きかも」
石段をゆっくり下りるおばあちゃんの後ろから、
そう声をかけた。
「はははっ...そりゃよかった。
家のすぐ裏山だ。
また何度でもくればいい」
はははっと笑いながら、また、
一段一段、ゆっくりと、
時々振り返りながら下りていった。
...明日も神社に行ってみよ...
何にもすることのない私は、
また明日、ひとりで神社に行ってみようと、
石段を下りながらそう心に誓っていた。