君に恋した
「誰が馬鹿だって?」
「ひぇっ、」
不満そうな声が聞こえたものだから思わず背筋を伸ばして直立する。
頭のてっぺんに括られた見えない糸を誰かに引かれたみたい。
ゆっくりと首だけを左に向けるが、厚くて冷たい扉はしまったままで、開いた気配はない。
そもそも、人の気配なんてここに来た時、あったのだろうか。
キョロキョロと見回しても何も変わっていない。
もし、かして、
「幻聴…」
「んなわけあるか。上だ、う・え」
声のままに顔を上に向ける。