恋はストロングスタイル
登校すると、俺はある決意を固めて、教室に入ってきた南斗さんに近付いた。
俺を見ると、南斗さんはなぜか泣きそうな顔をして頭をさげた。
「健介君、昨日はごめんなさい!本当にごめんなさい!」
……屈辱だった。勝者に謝られるとは。果たし状を出して、勝っておいて謝るとはどういう了見だ。
俺はしばらく無言で彼女をにらんだあと、低い声で言った。
「……話がある。ついてきてくれ」
俺は南斗さんを連れて、昨日の校舎裏へ向かった。
そこの校舎の壁には、人型の穴が開いていた。漢字の「大」みたいな形の穴だ。
昨日の放課後、俺はそこにめりこんでいた。かなりがっちりとめりこんでいたせいで、抜け出すのに深夜二時までかかった。途中、校庭に遊びにきていた鼻水たらしたガキが通りかかり、俺のズボンにでかいハナクソをなすりつけていきやがった。
あの糞ガキ、今度会ったらぶん殴ってやる。
俺はぎりぎりと拳を固めた。
「健介君、……話って、な、何かな?」
俺はきっと振り向いた。
南斗さんはきゅっと身を縮めた。
・・・・・・怒られると思っているのだろうか?俺は昨日の敗北にはなんの文句もない。負けたからってどうこう言う程、器の小さい男ではない。
俺は声をやわらげて言った。
「南斗さんに、お願いがあるんだ」
「……お願い?」
南斗さんは、なぜか意外そうな顔をした。
「ああ」
「あ、……そうなんだ。それで、お願いって?」
俺は大きく息を吸うと、背筋をのばして、まっすぐに彼女の目を見ながら言った。
「俺の修行に付き合ってほしい」
その時、校舎の近くにある線路の上を、特急列車が通り過ぎた。大きな走行音が、あたりに響きわたる。
そう。いまの俺に足りないのは、強い修行相手だった。部活の同級生も、道場の兄弟子も、俺の相手にならない。しかし南斗さんなら、あんな凄まじい蹴りを持つ彼女なら、俺の修行相手としてふさわしい。彼女と一緒に修行すれば、俺はまた一段と強くなれるはずだ。