恋はストロングスタイル
パシッ
私は田山の頬を張りました。
「ふざけないでよ。そんなことして、私が喜ぶとでも、思ってるの?」
「じゃあ、本気でやってもいいんだな?おれの強さ、おまえだって知ってるだろ?」
「…………」
私は無言でうなずきました。
「よかった」
田山はため息をつきました。
「……?よかったって、何よ?」
「いや、その健介って男にがっかりしなくてすんだなって。もし、おまえがおれにわざと負けてって頼んでたら、付き合ってる女にそんなことを言わせるような程度の男だったら、いまからぶちのめしに行ってるところだった。そんなヤツ、神聖なリングにあがらせたくねえからな」
「田山……」
「これで、安心しておれも戦える」
田山はリングを降りると、両手をポケットにつっこんで、大声をあげました。
「南斗。おれさ、おまえのことが好きだ!」
声が、練習場に反響しました。
私は、突然の告白に絶句し、顔を赤くしました。
田山は続けました。
「覚えてるか?おれ、小さい頃、おまえにプロポーズしたことがあったんだぜ。幼稚園通ってたころ、おれはひ弱でさ。いつも近所の悪ガキにいじめられてた。おまえは、そんなおれをいつも助けてくれていた。で、ある日、おれはおまえに誓ったんだ。『晶ちゃんを守れる強い男になる。そうなったら、結婚して』ってな」
「……覚えてるけど」
小さい子供の言うことだ。本気で聞いてはいなかった。
「それで、おれプロレスを始めたんだ。そして少しは強くなった。もっと強くなって、団体のトップレスラーになったら、告ろうって考えてたんだけどな……」
田山は、わしわしと頭をかきむしりました。
「……田山」
「さっきスクワットしてるおまえを見て、きっぱりあきらめたよ。おまえ、……すげえ輝いてんだもん。短い間にいい女になりやがって。その健介って男。会ったことないけど、いい男なんだろうな」
私は複雑な表情で田山を見下ろしました。
田山はしばらく苦笑したあと、鋭い目つきになって、私に向かってびっと指をさしてみせました。
「でも、明日の試合は、おれは本気でやるぜ。勝っても恨むなよ。……じゃあ、おれは帰るよ。おまえも早く寝ろよ」
そう言って、田山は背を向けて歩き出しました。