受胎告知Fake of fate【アンビエンス エフェクト第二のマリア】
 俺は不意に、結婚する前に一緒に暮らした日々を思い出していた。

俺のために一生懸命に手料理を作ってくれた宇都宮まことを。


きっと初めてなのだろう。
包丁を持つ手がぎこちない。


朝の目玉焼きの玉子を割ることにも苦戦する。
そんな彼女が愛しい……


何気に振り向いた時の、エプロン姿に思わずドキッとする。

どうしようもなく、抱き締めたくなる。


でも……
結婚するまでは守ろうと決めていた。

そう、有事対策頭脳集団の本当の姿を知る前のことだった。




 『痛っ』

その声に驚いて見ると、宇都宮まことの指先から血が出ていた。
俺は躊躇わずにその指先を口に運んだ。


赤い血を舐めると懐かしい味がした。
でも、それが何なのか思い出せない。


俺は何時ものように、冷蔵庫からトマトジュースを出して飲む。


『あれっ違う……』
それは何時も母が準備してくれた物ではなかった。


(ああ、あの懐かしい味の正体は……俺をヴァンパイアに育てるための血液入りトマトジュースだったのか? だから冷蔵庫から出して飲んだトマトジュースの味が違っていたのか? そうだ確か……あのトマトジュースは俺がコンビニで買っておいた物だ。母が用意してくれた物ではなかったんだ)


若林結子と氷室博士教授は、俺をヴァンパイアに育てる実験をしていたのだろうか?


(何故だ!? 俺を愛しているって言ってくれたのに……全てが大嘘だったのか?)




 まことを守りたい。

有事対策頭脳集団から守りたい。
望月眞樹から守りたい。


でも俺はヴァンパイアかも知れないのだ。

ヴァンパイアにさせられたのかも知れないのだ。


俺の傍に居ると何時襲うやも知れない。

まことにとって最大の危険人物なのかも知れないのだ。


恋に狂った俺を想像してみる。
でも本当の姿など自分自身で解るはずなない。




 俺は何時しか、あの白い部屋にいた。

二人で描いた初夜の絵の前にいた。


その絵の中に答えがあった。


俺はまことを襲っていた。

まことの血を啜っていた。


(やはり俺はヴァンパイアだった……ヴァンパイアにさせられていた……)


『ママー、ママー!!』
あの悪夢の声が脳裏に響く。


(俺は一体何時からヴァンパイアになったんだ? 俺をヴァンパイアにした真の目的は? 解らない。解らない。誰か嘘だって言ってくれー!! 考え過ぎだって言ってくれー!!)




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