受胎告知Fake of fate【アンビエンス エフェクト第二のマリア】
 一ヶ月後。
俺達は同時に退院することが決まった。


俺の体には、指が思うように曲がらないと言う後遺症が残った。

一番大変なのは食事だ。
箸が使えなくなった。

でもそれは母が調達してくれた、スプーンやフォークの柄の部分が大きなリングになっている物でことなきを得た。


試しに絵筆を握ってみた。

上手くいかない……


俺は焦った。

勉強も出来ない。
その上絵も描けなくなる。


母の示してくれた俺の未来像が揺れていた。




 そんな俺に、宇都宮まことは優しかった。

リハビリルームが二人の愛を育む。
そう……
俺達はやっと理学療法士や看護師に認められ……


ってゆうか……
見て見ない振りをしてくれているのを良いことに、俺が傍にいただけだった。


俺は益々、宇都宮まことに墜ちていた。

片時も宇都宮まことと離れたくなかった。


宇都宮まことが何処かに行ってしまいそうで怖かったんだ。




 俺は宇都宮まことを見守りながら、握力を取り戻そうとボールを相手に格闘する。
でもそれは逃げる。
掌から零れ落ちる。

二つの掌で合わせみた。
組もうとした指が曲がらなかった。


見かねて宇都宮まことがそっと指を組ませてくれた。


「どう? 痛い?」

俺は頭を振った。


痛みは無い。
でも、俺は心の中で痛みを感じていたんだ。


宇都宮まことの優しさが、俺を完治させないでいた。


俺はただ甘えたかっただけだった。
宇都宮まことが優しいのをいいことに……

これでは見守るどころではない。
俺はただのだだっ子になっていた。

そんな俺にさえ、宇都宮まことは優しかった。
だから尚更、傍にいたかったのだ。




 『お母さん』
宇都宮まことの言葉が俺の脳裏から離れない。

俺達二人は、本当の姉弟なのだろうか?

俺は……
愛してはいけない人を愛してしまったのだろうか?


看護師に教会の場所を尋ねてみた。

退院したら、何時宇都宮まことに逢えるか解らなくなる。
その前に二人で行きたかったのだ。


母を守ろうと、佐伯真実が誓いを立てたと言う祭壇の前に……


そう……
俺も……
宇都宮まことを守りたかったのだ。

そして……
愛してはいけない人を愛し抜く決意を固めるためにも。


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