受胎告知Fake of fate【アンビエンス エフェクト第二のマリア】
 「喬君は実験で産まれて来た訳じゃないわ。この世に平和を齎すために神が遣わした天使なのよ」


「天使? 俺、男だよ」
俺は笑った。
だって男の天使なんて考えも及ばないから。


「オルレアンの少女のお告げも、シナイ山でモーゼに石板を渡したのも、みんな大天使ガブリエルだって言い伝えよ」


(大天使ガブリエル!? 誰だそれ!?)


「でも私はミカエルに魅力を感じるわ」


(ミカエル? それなら聞いたことがあるかもな?)


俺は以前……
隠れキリシタンのマリア像ではないかと言う、子育て観音の話を聞いたことがあった。


その像の後ろに、ひっそりといるカエル。

そのカエルがミカエルだと言うのだ。


俺のミカエルの知識はそんなものだった。


勿論ガブリエルなんて初耳だった。


でも宇都宮まことはその後気になることを言った。


「聖母マリアに受胎告知をしたのも、ガブリエルだったのよ」
と――。


(受胎告知……)

その一言で、俺は母を思い出していた。


(母さん……会いたいよー)

俺はまだまだ、母さんのおっぱいを恋しがるお子ちゃまだった。


(ああダメだ……まことに笑われる。もっと大人にならなければいけないな。だってまことはさっき、俺との結婚を誓ってくれたんだ。まこと……君は何て大きな人なんだろう)




 俺はその時……
宇都宮まことこそ、大天使ミカエルの生まれ変わりなのではないかと思った。


俺達はその日。
神の御前で、婚約したのだった。


大天使ミカエル。

詳しいことは解らない。

でも大天使と付くとなると相当偉い人なんだろう。
いや違った。
天使だった……


まことの話しだと、ガブリエルは神の言葉を告げる伝道師。

ミカエルは甲冑を身にまとい戦う天使らしい。

なぜ宇都宮まことがミカエルを好きなのかは解らない。
でも守ってくれようとしてるらしいのだ……
この俺を。


俺はそんなまことの応援を得て、ある辛い決断をしようとしていた。


それはただでさえ寂しい俺を更に孤独にすることを意味していた。




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