受胎告知Fake of fate【アンビエンス エフェクト第二のマリア】
 思った通りドアは内開きだった。

でもそれはトイレのドアと同じで、真ん中の出っ張りを押して施錠する仕組みだった。


――ガチャ。

そっと開けたいのに、意外と大きな音だったので俺は慌てた。


(こんな単純な鍵だったなんて……)

俺は頭を掻き掻き母の部屋を後にした。


施錠された母の部屋は……
一階だと思っていたリビングダイニングに繋がっていた。


俺は其処に、意外な物を見つけた。

それは携帯電話の充電器だった。


でもその先は携帯電話は繋がっていなかった。


暫く探してはみたものの、見つからない。
俺は諦めて母が買い置きしておいた冷凍のパンと、冷蔵庫の中にあったありったけのドリンクをを抱えて宇都宮まことの待つ部屋に戻った。




 薬が切れる。
次の瞬間、宇都宮まことは豹変した。

淀んだ目の奥で、激しい感情が燃えていた。


「薬ーー!!」
彼女は泣き叫んだ。


俺はなすすべもなく……
ただ抱き締めた。


少し大人しくなる。
その度水を渡した。
その水が薬の成分を排出させてくれると信じて。


持ち込んだペットボトルの中身を飲み干した後、キレイに洗い水を入れておいた物だ。
ついでにやかんも水を汲んでおいた。
それがどんな効果をもたらせてくれるかなんて判らない。
でも一番良い方法だと思った。




 俺から離れたくて、解放されたくて……

彼女は俺の腕に噛み付いた。


腕が食いちぎられそうになった。
それでも俺は抱き締めた続けた。

ただ愛と言う名のもとに。


やっとおとなしくなった彼女。
俺は安心して、少し彼女から離れてトイレに行った。


戻って来た時……

後悔した。

彼女は自分の髪の毛をかきむしっていた。




 俺は……
母が昔使っていたバリカンを見つけ出し、泣きながら宇都宮まことの頭を刈った。


抜毛症だった。

髪は女の命とも言う。

その女の子にとって大切な髪を自ら抜いてしまうほど宇都宮まことは追い詰められていたのだった。




< 83 / 147 >

この作品をシェア

pagetop