受胎告知Fake of fate【アンビエンス エフェクト第二のマリア】
 思惑通り、俺はそのトラップにハマった。

母は報告したのだろうか?


施錠された母の部屋に俺が足を踏み入れた事実を。


もしそのような情報が入ったのなら、きっと父は狂喜乱舞したに違いない。

それこそが父の待っていた、小松成美に近付く第一歩だったのだから。




 俺はやはり、あの家には住めないと判断した。


宇都宮まことに……

何時何時、降りかかるか解らない火の粉。


オカルト教団の内面を知った者の恐怖。


それらが全て、宇都宮まことを苦しめることになるかも知れない。


そんなしがらみから脱出するためにも、俺達はあの家を出るしかなかったのだ。


検査入院している彼女が帰って来るまでに、俺は新しい住まいを見つけようと思っていた。


でも本当は薬の成分を身体から追い出すのが目的だった。

幹部候補生達が、どんな薬を使ったのかを血液検索で把握してから治療するためだった。

でもそのためには又薬漬けになるかも知れない。
俺はそれが怖かった。




 俺はまだ自由に動かない指先に絵の具を付けて、カンバスに宇都宮まことの裸婦像を描く。

俺の手に、俺の心に感じる宇都宮まことのボディ。


まだあの日のままに……

俺の五感の中に蠢いている。


離れている今だからこそ彼女の全てが描ける。


愛しい思いをその掌で……


でも本当はそれを売り出したいと思っていた。

俺に出来ることはその位だった。
彼女のためなら、職業画家と呼ばれても良いと思っていた。
彼女と平穏に暮らしていけるのなら、どんな苦労もいとわない。
何でもしてやる。
と、俺は改めて誓った。




 その絵が美術関係者の目に止まって、第二の小松成美として脚光を浴びることになった。

そして個展も十一月に決まった。
結婚式の前に資金を集めるのが目的だったから。

俺は知らなかった。
佐伯真実が、密かに手を回してくれたことを。


佐伯真実も模索していた。


第二第三の造犯者が出る前に、宇都宮まことを施設から解放することが出来ないかと。


自分の監督不行き届きのために、宇都宮まことを危険に晒したことを反省したからだった。


出来るなら、二人の門出を祝ってやりたかったのだ。




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