受胎告知Fake of fate【アンビエンス エフェクト第二のマリア】
 「宇都宮で一番有名なのは何だ?」
運転席で、宇都宮まことを気遣いながら佐伯真実が尋ねる。


「多分、餃子……」
俺は答える。


「あっ、それと駅弁発祥だったかな?」


「じゃあ、宇都宮駅の東口にあった物は?」


「うん、それ知ってる。多分餃子像。あれって確か真っ二つに割れたとか?」


「移転の為の移動中に割れたとか聞いたけど」
宇都宮まこともやっと言った。
教団の幹部と一緒で緊張しているんだと俺は感じた。


「あれは昔、テレビ局のイベント企画だったんだ」


「確かタレントがアルバイトをするとか言うヤツだと聞いたけど」


「ああそうだよ。でもそのお陰で宇都宮が有名になれたんだ。私が何故彼処の病院を訪ねたかと言うと……宇都宮の宇は宇宙の宇。何だとか一馬が言っててな」




 (宇都宮は宇宙の宇!? らしいな……)

自分は宇宙人だと言っていた望月一馬。


(俺達二人も宇宙人にしたかったのかな? 俺と眞樹だけじゃなかった。宇都宮まことともつながっていたんだ)


俺は宇都宮まことの手を握り締めた。
やっと指先に力の戻ったこの掌で。


宇都宮の宇は宇宙で宇都宮は以前は関東の中心地だったと言う。
都だったのだ。
だから……
望月一馬に選ばれたのだった。


宇都宮の凄いところはそれだけじゃなかった。

宇都宮まことの言うように駅弁発祥の地でもあったのだ。

オニギリ二個と、沢庵二切れ。
そんなシンプルな物だったらしい。


俺は宇都宮は新しい文化を積極的に取り入れる素晴らしい街だと思った。




 「全て私の一存でした事です」
佐伯真実は宇都宮まことの母親の両親に手を着いて謝った。


「いいえ、こうして又逢えたのですから」
祖母の並木治子は言った。


(又逢えた? 一体どういう事だ)


「そうでしたかやはり、あなたでしたか?」

佐伯真実は、祖母の手を握り締めた。


「ありがとうございます。こんなに立派に育てていただきまして……」

並木治子は泣いていた。


「あんな、あんな……、握り拳位しかなかった赤ん坊が……」

そう言いながら、宇都宮まことの手を取った祖母。


「自殺だと聞かされて気が動転していたんです。彼処の先生に頼んでしまった……」

宇都宮まことに誤るためなのだろう。
祖母はそのまま……
ただ宇都宮まことを見つめていた。



< 95 / 147 >

この作品をシェア

pagetop