受胎告知Fake of fate【アンビエンス エフェクト第二のマリア】
 「確かに遺書は持っていました。でも最期に生きようとしたのです。この子を生かそうと思ったのです。そうでなければこの子を守らないと思います。庇ったのです我が子を」

佐伯真実は泣いていた。


「だからこの子を助けてやりたかった……。独りよがりだと解っています。でも放っておけなかった」


それが、佐伯真実の本心だった。

超未熟児が保育器から卒業し、普通に生活出来るまでになる為には長い時間と相当の金額がかかる。

まして、宇都宮まことの母親は既に死亡していた。
その費用を佐伯真実が工面していたのだった。


「私は、あの子が妊娠したことにも気付かずにいたのです。母親失格です」

並木治子は宇都宮まことの手を握り締めながら、泣いていた。




 「私はどうしてもこの子に初乳を飲ませどあげたくて、帝王切開で双子を産んだ人に頼んだのです。この子の母親になってくれと」


(母だ……俺達は乳兄弟だったのか?)


初乳……出産した後で初めて出る母乳――。
それは赤ん坊の抵抗力を付けると何かで読んだ覚えがある。
きっと超未熟児の宇都宮まことは、保育器から出られた頃は俺達位しかなかったの知れない。

だから……
大きく成長させるために……

母は胸に抱いたのか?

一番初めに宇都宮まことが飲んだ母乳。


(そうか……俺達の原点か? 俺が孤独と戦っていた頃。宇都宮まことは幸せだったのか?)




 俺は宇都宮まことを幸せにさせる権利を母から受け継ぎたいと思っていた。


自殺を図った宇都宮まことの母は、我が子を庇い死んでいった。

助かった命を救おうと懸命だった佐伯真実。


だから預けたのだ。
だから育てられたのだ。


そんな大切な命を簡単に扱った若き幹部候補生達。

俺はこの人達を絶対許してはいけないと思った。




< 96 / 147 >

この作品をシェア

pagetop