受胎告知Fake of fate【アンビエンス エフェクト第二のマリア】
 生きていた胎児は、非常に弱い乳児にだった。

低体重未熟児の多くは手厚い看護の元で育てられる。
でも、教団に隠れて育てられた宇都宮まことには……

だから病気療養を名目にして、若葉結子が世話をしたのだった。


そんな母の思いを知り、俺は決意した。


宇都宮まことを幸せにしたい。

宇都宮まことが幸せになれば、俺も幸せなんだ。
そう思った。


俺は今まで、自分の幸せばかり考えて来た。


孤独を埋めてほしくて母の面影ばかり追っていた。


でも吹っ切れた!

俺は許される限り彼女に甘えよう。

なんて嘘。
許される限り……

宇都宮まことを愛し……
その母を愛し……
その祖父母を愛そう。


俺達の力で……

みんなが幸せになれば、こんな嬉しい事はない。




 俺は、母が氷室博士教授を愛していることは承知している。
それでも勇気を出して欲しかった。
愛していると言ってほしいかった。
佐伯真実に。


だから帰りの車の中で思い切った行動に出ようと思っていた。


「佐伯さん……。俺は十八歳になったら、結婚したいんだ。その時、二人の見届け役になってほしいと思ってます」


「だから……」
そう言いだしたのは宇都宮まことだった。


「だから勇気を出して、お母さんにプロポーズして」

俺は……
宇都宮まことを見つめた。


同じ……
同じ思いだった……


その時、佐伯真実は慌てたらしく、急ブレーキを踏んだ。

その勢いで俺と宇都宮まことの体が重なった。
後部座席のシートベルトが穴に入りづらくて、結局諦めて外したためだった。


俺は驚いて体を元の位置に戻した。
見ると宇都宮まことが必死に笑いを堪えていた。
それは宇都宮まことにやっと平穏な日々が戻った証拠だった。


「ありがとう……」
そう言ったのは佐伯真実だった。
その時俺はルームミラー越しに佐伯真実が泣いているのを目撃した。


頬を温かい物が流れた。
俺も泣いていたのだ。

宇都宮まことの優しさに二人は泣いていたのだ。



「ありがとう二人共……」

佐伯真実はそう言いながら、又エンジンを掛けた。


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