初恋の、人
「取り込み中」
そして、今日も彼のステイタスは赤い。
「これから会議だよ」
と言うのが彼との最後の会話だった。
ステイタスを、直し忘れたふりをして、でも、多分、それはきっとわざと。
彼女との事を聞いたから。
嘘をつけない人だから。
「ここにいる」
ってそのことだけを知らせてくれる。
だけど、もう、彼は、「おはよう!」と話しかけることすら許してくれない。もう、話しかけたりしちゃだめだよ、と、その小さな赤い丸の中にある白い細い短い棒でそう私に告げているのだ。
それでも私は彼のステイタスを今日も確認する。オフラインにさえなっていなければ、それでいいから。
暑い夏の日には、彼と見た都会の海を思い出す。白いプラスチックのテラステーブルと椅子。木製のベンチに座って見た夕暮れの景色。それが私たちの初めてのデートだった。寒い冬の夜なら、彼が生まれて初めてプレゼントしてくれた暖かいガウンと彼の優しい文字を。
「受話器の向こうで、いつも震えている 君へ」
「モニターの向こうで、君は今 どうしている?」
彼の赤い丸いステイタスはどうしてこうも饒舌なのだろう。
そう、私は、
いま、あなたへのラブレターを書き終えたところ。
19年の月日を越えてあなたに届く事のないラブレターを。
Fin.