ほんとの笑顔が見たかったんだ
「じゅなちゃん、あれから一回も見なかったけど、何してたの?どっか出掛けてた?」

私の様子を察してくれたのか、また彼から話題を振ってくれた。

「いや…むしろ引きこもってたよ。宿題してたの」

「マジか!じゅなちゃん、確か緑野学園だっけ?」

「そうだよー。」

「頭良いんだね。じゃあ、あれ?学習合宿とかあるの?」

「うん。合宿までにやらなきゃいけない課題が多くてさ、ウギャーってなってた」

「ウギャーって…」

"はは"っと軽く、彼は笑った。

彼はやっぱり不思議なヤンキー君だ。

派手な見た目だし、煙草も吸うし…だけど中身はヤンキーっぽくないんだよね。

「んじゃ、俺行くわ!」

立ち上がると、コーヒーの缶をちゃんとゴミ箱に捨てる彼。

「龍星君…」

"って、ヤンキーっぽくないヤンキーだね!"

と、うっかり言いそうになり、口を閉じた。

いけないよ私…そんな事言ったら失礼だよね。

「じゅなちゃん、合宿頑張ってね!」

「ありがとう!またね!」

歩き出す彼に、手を振った。

けど、少し歩いて彼は振り返ると、

「あ、俺、明日実家に帰るんだ!ま、じゅなちゃんの合宿が終わったら、ソラと三人で遊ぼうよ!」

そう付け加えた。

「分かった!楽しみにしてるね!」

私は再び彼に手を振る。

去っていく彼を見つめながら、"もう帰っちゃうんだ…"と、少し残念に思った。

< 10 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop