ほんとの笑顔が見たかったんだ
「あら、遅かったわね!」

じゅなと龍星と休憩していたオカンが戻ってきた俺らを見るなり駆け寄ってきた。

「ごめんね!ちょっと混んでてさ!で、悪いんだけど、よくよく考えたら2人だとアイス持ちきれなくてさ!だから俺と楓ちゃんは2人で1つって事で勘弁してね!」

さらっと“混んでた”と嘘をつくと、オトンは食べかけたソフトクリームをオカンに渡した。

「なんで食べかけ渡すかなー!ま、拓海君のだから良いけどさ!」

そう言ってオカンは声を弾ませ、笑いながらそれを食べた。

自分で親の事こんな風に言うのはあれなんだけど…バカップルだよなー…。

俺は両手に持っていた2つのソフトクリームをじゅなと龍星に渡し、自分の分はオトンから受け取った。

「溶けかけだけど、美味しいね!」

「うん!生き返るっ!」

オトンとオカンは別のベンチに座り、俺はじゅなの隣に普段通り座ったけど、こうやって近くで見ると、龍星と話してるじゅなはやっぱり楽しそう…。

改めて、龍星の事が男として好きっていうのが伝わってくる…。

てゆーか、もうほんと俺の事全然見てくれないし…。

マジで俺、情けない…。

何も喋んなくて早々とアイスを食べ終えた。

「でも結構乗り物乗ったね!龍星君、他になんか乗りたいのある?」

「そうだねー。俺、最初に乗ったやつが気に入ったからまたあれ乗りたいかも!ソラはどうかな?」

じゅな越しに、龍星はのぞきこんで俺の方を見る。

「俺も一番最初のが良いかなー」

「だよね!」

龍星は無邪気に笑った。

「じゅな、あのさ…」

俺は自分の膝に手を置いて、拳をぎゅっと握った。

誘うだけなのに…なんでいちいち体熱くなんのかな…。

「んー?」

やっと、俺の方を見てくれたじゅな。

俺の事なんて全然意識してない感じが伝わるんたけど、でも…やっぱり自分の気持ちに嘘はつきたくない。

頑張って言おう。

「あのさ…次は俺の横に座れよな」

じゅなの顔をまともに見れずに前の方を見ながら言った。

「う、うん!良いよ!乗ろ!」

さっきまで一人で乗ってた俺が急にそんな事を言い出したからか、じゅなは一瞬動揺したかのようだったが、笑ってそう言ってくれた。

「お、ソラちゃん急にどうしちゃったー?」

意を決した俺を見て龍星はニヤけながらわざとらしく聞いてくる。

「絶叫してるじゅな、面白そうだし」

「何それ!ひどっ!」

「めっちゃ面白い顔してそうだしな」

「ソラのばーか!私もソラの顔見て笑ってやるからね!」

じゅなはそう言いつつ、笑っている。

男らしい事なんて言えなくて、これまでと一緒でからかうようにしか言えないけど、一緒に乗ってくれそうだ。
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