ほんとの笑顔が見たかったんだ
過去へと
ずっとさっきの出来事ばかりが頭の中で繰り返されている。

“龍星君の事が好き”

涙しながら、じゅなちゃんはそう言ってくれた。

まさかだった。

ソラと結ばれると思ってたからほんとにびっくりした…。

なんで、俺なんだよ…。

ソラはずっとじゅなちゃんを想い続けてきたのに…

じゅなちゃん…俺なんか好きになったらダメなんだよ…。

電車の窓の外をぼんやり見つめながら、そればかりを考えていた。

『ソラ、夏休みの間色々ありがとう。さっき、じゅなちゃんの気持ち、聞いた。でも俺はじゅなちゃんの事、幸せに出来ないから付き合えないって言ったよ』

トークモードでソラにそうメッセージだけ送り、窓の外の移り変わる景色を再び見つめた。






駅を降りると、久しぶりの景色が目に映る。

心が踊るわけでもなく、むしろ息苦しくなる。

昨日まで鮮やかだった毎日が、一瞬にしてモノクロになるようなそんな感じ。

帰りたくない、帰りたくない…。

俺は昔からずっと弱虫だ。

だから、ソラの家を出る時から、ずっと泣きそうだったんだ。

だめだ…。

もう、着いてしまう…。

お兄ちゃんは…まだ家にいるんだろうか…。

仕事を決めて、家から出てくれていたらまだマシなんだけど、そんな事、俺が言う権利なんてない。

むしろ俺さえいなければ…良かったんだから。

”市坂”の表札。

俺の家。

そこに居場所なんて…ないんだ。
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