ほんとの笑顔が見たかったんだ
ソラの家の前に、一台の車が止められている。

10月の最後の日曜日の朝。

私とママはソラの家に来ていた。

「じゃ、りゅう君の事…よろしくね」

楓さんは、車を運転してきた女の人に優しく言った。

龍星君は、これからこの女の人の家で暮らす事になるんだね。

「じゃあ…行くね」

切なげに、龍星君はみんなに言った。

「龍星…じゃあな…また、連絡待ってるから」

「ありがとう…ソラ」

「りゅう君、頑張ってね」

「うん、ありがとう」

龍星君は、目をうるませながら、車のドアを開けた。

「龍星君……またね…バイバイ…元気でね」

車に乗り込もうとしている龍星君に、ほんとはもっと言いたいこと、話したいことはあったけど、うまくまとまらなかて、でも何か伝えたくて……私は今の精一杯の言葉を伝えた。

「じゅなちゃん…ありがとう。俺、頑張るよ」

車に乗る間際に、龍星君は私に手を差し出した。

その手を、私は優しく握った。

最後の握手。

龍星君の手は温かかった。


秋の清々しい青空の下、私達はさよならした。



龍星君………。

これからの人生が龍星君にとって幸せな未来でありますように。

そう私は願いを込めた。
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