ほんとの笑顔が見たかったんだ
実家に着いた。

「ちょっとだけ待っててください。すぐ、戻るんで」

「いいわよ。ゆっくりで」

日山さんに、軽く頭を下げ、玄関のドアを開けた。

お父さんはいつものように仕事だし…お兄ちゃんも今はいないようだ。

家の中からは掃除機の音がする。

リビングに向かうと、お母さんは掃除機をかけていた。

掃除機の独特の音。

「お母さん!」

掃除機の音にかき消されないように、大きな声で言ってみた。

明らかに俺の声は聞こえている。

だってほんとに近い距離だし。

でも、お母さんは俺を無視して、掃除を続ける。

「お母さん…」

こんな時まで、無視か…。

やっぱり辛い。

でも…もうどんな形でもいいから、伝えたい事は伝えて、出発しよう。

そう決め、届くか分からないけど俺はハッキリと話す事にした。
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