ほんとの笑顔が見たかったんだ
「お母さん…俺ね、お母さんと昔2人で暮らしてた時ね、ほんと幸せだったよ。お母さんの作るホットケーキが俺、めっちゃ大好きだった。お母さん、俺の事、もうなんとも思ってないだろうけど…俺はお母さんとの思い出、ずっと大事にしていくから」

お母さんは掃除機を止める事なく、最後まで俺に背を向けていた。

ほんとにほんとに…もう俺の事、何も思ってないんだ。

もうお母さんの中で俺は存在していないんだ。

でも、お母さんとの昔のあの日々が幸せだったのは事実だ。

だから、それだけは伝えたかった。

これは淡い期待だっただけだろうけど…少し位話したかった…。

でも、やっぱそれは無理だった。

「バイバイ」

冷たく向けられているお母さんの後ろ姿にそう告げ、リビングを出た。

玄関で少し泣いてから日山さんの車に戻った。
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