ほんとの笑顔が見たかったんだ
「なんかあったんだろ?」

単刀直入に聞いた。

数秒間、龍星は何も言わなかった。

だけど、

「なーんもねぇよ!」

また、明るく笑う。

無理してんじゃねぇよ…。

「なんかあったから俺に電話したんだろ?」

ごまかす龍星に、もう一度聞いた。

龍星はまた黙り込んだが、しばらくしてゆっくりと口を開いた。

「あのさ…関西で仕事してたお兄ちゃんがさ…最近仕事辞めて、で、昨日実家に帰って来たんだわ」

出来るだけ、いつも通りに話そうとしているみたいだけど、その声は、震えているように聞こえる。

俺は、小さく"うん"と頷く。

龍星は続けた。

「お兄ちゃんさ、俺見るなり…めっちゃ殴ってきた…」

「え…」

俺の口からは、それ以上言葉が出なかった。

どういう事なんだよ。

なんで?

なぜそうなったのか理解が出来なくて…返す言葉が見つからない。

「俺が憎いらしい…。憎くて、いくら殴っても気が済まないらしい。今日も殴られた…でも、悪いのは俺だから仕方ない。俺が悪いからこうなった…自業自得だって、俺が一番分かってる…」

そう話す龍星の声は、小さく呟くようだ。

自分の友達が…苦しんでいる時、どんな言葉をかけたらいいんだ…?

俺、龍星以外のやつと、まともにつるんだ事ないから…こういう時、どうしたら良いのか分からないんだ。

ほんと、情けない。

辛いんだよな。

お前は今にも崩れてしまいそうで、辛いんだよな。

俺が知らない何かを抱えているんだよな。

「龍星、俺ん家戻って来い。俺、駅まで迎えに行くから」

龍星、俺、こんな事しか言えなくてごめんな。

俺、すげー不器用なんだわ。

「ソラ、ありがとう。やべー…俺今泣きそうなんだけど!」

龍星は頑張って、笑って言うけど、ほんとに泣いているように思えた。

「何があったとか、お前が今何を抱えているかとか、今は聞かねぇから、とりあえず夏休みはこっちにいろ。」

「ありがとう…。今度、ちゃんと話す。ソラ…ごめん」

「悪くねぇのに謝んな。いいからさっさと準備して来い」

「ん、分かった。ありがとう」

電話を切った頃には、大粒の雨がザーザーと降っていた。

それはまるで、龍星の心の訴えを写し出したかのようだった。
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