ほんとの笑顔が見たかったんだ
改札を抜けようとした時だ。

背後からギュッと手首を捕まれた。

「え?」

驚いて振り返ると、

「じゅなちゃん…」

龍星君が、息を切らして立っていた。

彼の筋ばった手が、私の手首をしっかりと握っている。

突然の事だからか、私の心臓がドクンと大きく動いた気がした。

「り、龍星君…ど、どうして?!」

「その前に自分の足見て」

いつも笑っている龍星君は、珍しく真面目に言った。

私は、言われた通りに自分の足を見ると、両膝には大きい擦り傷が出来ていた。

傷の間からは血が滲み出ている。

「あ…ありゃりゃー!どーしよー!」

なんて言って、とりあえず私はふざけて笑ってみる。

「ちょっとそこ座ってて。勝手にどっか行かないでね?」

まるで小さい子に言い聞かせるように言う龍星君。

「あ…う、うん…」

戸惑いながら、私は券売機の近くのベンチに座った。

「すぐ戻るから」

駅の横にあるコンビニに向かう彼の後ろ姿。

それを見ると、さっきの手を思い出した。

また、心臓がドクンと鳴る。

気温のせいなのか、走ったからなのか、分からないけど、体がめちゃくちゃ熱い。

どうしたの…私…。
< 36 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop