ほんとの笑顔が見たかったんだ
「それマジで言ってんの?」

起き上がって龍星に問いかける。

「マジだって。さ、宿題しよ。」

「誤魔化すんじゃねぇよ」

俺がそう言うと、龍星は言いづらそうに目をキョロキョロさせた。

そして、無理矢理作った笑顔を見せた。

「公園に向かってる途中にさ、近所のオバサン達に話しかけられてさ…色々言われたんだよね」

「なんて言われた?」

そう聞いた俺の頭の中では、すでに数人の顔が浮かんでいた。

それは、噂話や他人のアラ探しが好きな近所のヤツらの顔だ。

数人でつるんで、一人のターゲットを見つけては文句やクレームを楽しんでいるあいつら。

俺が最も嫌いなタイプの人間。

「地域の住人に迷惑だからもう公園には行くなだってさ…。てか、もうこの地域から出て行ってって言われちゃった。俺、目障りなんだって。まぁ、前から俺を見て"なんか言ってるなー"とは思ってたけどね」

まるで他人事のように鼻で笑う龍星。

目は全く笑ってない。

実は俺も、小学生の時、あいつらに色々言われた事がある。

"感じ悪い"とか"暗い"とか…。

今なら"勝手に言ってろ"って感じで無視するけど、あの時はまぁまぁキツかった。

時間が経てばどうでもよくなったけど。

「あいつら…超うぜぇ…」

俺はそう言うと立ち上がり、部屋から出ようとすると、

「ソラ、どこ行くの?」

不安そうに龍星は俺に聞いてきた。

「お前に余計な事言ったヤツらの中心にいるババアん家だよ。ムカつくから色々言ってくる」

「ソラ、行かなくていいから…。俺のせいでソラまでなんか言われたら嫌だし…」

弱々しい声で、龍星は俺を止めた。

「俺の事なんか気にすんな!とにかく今はここで待ってろ!!」

そんな龍星を怒鳴りつけて、俺は家を出た。
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