ほんとの笑顔が見たかったんだ
俺の家から歩いて5分程の場所に建っている家。
今まで一度も押したことのない、その家の玄関の呼び鈴を、俺はなんのためらいもなく押した。
「はい」
ドアホンから聴こえる、わざとらしい明るい声がムカツク。
「植原だけど」
そんな作った声に、俺は冷たく言う。
「植原さんとこの空君?」
「そう。とにかく早く出てきて来んね?」
俺がそう言うと、間もなくして玄関のドアが開いた。
「何か?」
さっきとは全く違う、低い声で言う女。
冷たい目で俺を見るその女は、龍星に文句を言ったヤツらの中心的人物…西條だ。
「あのさ…」
俺が話そうとすると、西條は
「あなたのお友達の金髪のあの子、もう地元に帰ったかしら?」
そう被せてきた。
近所の人間の事をよく観察している西條は、龍星が俺の友達だって事は、当たり前のように知っていたようだ。
「やっぱりあんたらだったんだな。龍星に変な事言ったの」
拳をグッと握って我慢する。
我慢しないと、俺は間違いなく手を出してしまいそうだから。
だけど、そんな俺を見て、西條は笑った。
「変な事って…何言ってるのあなた。私達は地域の人たちの事を思って、あの子にさっさとこの町から去るように言っただけよ」
「龍星は…誰にも迷惑かけてねぇだろが…」
「あなた本気で言ってるの?高校生なのに平気で煙草を吸っているのよ?しかも、子ども達が遊ぶ公園で、我が物顔で。」
「…別にそんなに子ども来ねぇじゃん…あの公園…」
俺がそう言うと、西條はまた笑った。
思いっきり俺の事を馬鹿にするように。
「あの子はね、地元で問題を起こして空君の家に逃げてきたのよ。空君…あなた利用されてるのよ?騙されているのよ?」
手で口を軽く押さえ、大声で笑いたい気持ちを抑えるように、クスクスと不気味に笑う西條。
俺は我慢出来なくなって、西條の胸ぐらを掴んだ。
「勝手な事言ってんじゃねぇよ!!龍星の事、全然知らねぇくせに!」
俺は西條を怒鳴った。
でも、西條は全くひるまず、俺をきつく睨み付けた。
「警察呼ぶわよ?」
そう言われた俺は、西條から手を離した。
俺がひるんでどうすんだよ…。
けど、警察はマズイ。
西條はまた笑う。
「さすが、暴走族の元総長と元ヤンの息子ね。全然しつけがなってない」
「今は俺の親の事は関係ねぇだろが!!」
手を出すのを必死で我慢し、怒鳴りながら西條に詰め寄った。
西條はそんな俺を突飛ばした。
まさかこいつがこんな事をしてくるなんて考えてなかった俺は、体勢を崩し尻もちをついた。
「とにかく、その龍星って子、今日中に帰らせてよね!」
そう言うと、西條は勢いよくドアを閉め、鍵をかけた。
抵抗出来なくなった俺は、立ち上がりドアを思いっきり蹴ってその場を去った。