ほんとの笑顔が見たかったんだ
振りほどこうとしても、オカンは手を離してくれない。

龍星の顔を見ると、下を向いて今にも泣き出しそうな表情をしている。

「植原さん、私達はね、そこに立ってる金髪の彼に、早くこの町から出ていくように言っただけよ?公園で、高校生なのに堂々と煙草吸ってて、まるで自分だけのベンチと言わんばかりにベンチを占領して。みんな迷惑してるのよ」

今度は西條の横にいる女が、一歩前に出てオカンの目の前に立った。

オカンは俯く龍星の顔を一瞬見て、少し気まずそうな顔で言う。

「りゅう君の煙草の件は、私も知っていました。けど、私は彼の親じゃないので…何も言えず、正直見て見ぬふりをしていました。私がりゅう君に最初から注意しておけば良かったと今は反省しています。」

オカンがまた西條達に頭を下げた時だ。

「ごめんなさい!俺が…俺が悪いんです!」

黙っていた龍星が、オカンより深く、頭を下げた。

「オバサン達の言う通りです。俺が間違ってました。ごめんなさい…」

なんでだよ…。

なんで簡単に謝るんだよ…。

「意外と素直ね」

深々と頭を下げる龍星を見て、西條達は顔を見合わせて笑った。

こいつらは…こういうのが楽しくて仕方ないんだろな。

「お前ら何笑ってんだよ!」

「空!!やめなさい!あんたも謝りなさい!!」

西條達に詰め寄ろうとするも、オカンに阻止された。

謝れって…なんでこいつらに…。

「なんでだよ!!なんでこんなヤツらに謝れとか言うんだよ!!」

「空、いい加減にして!!」

「こいつらは人をバカにして楽しんでんだよ!こっちはなんも悪い事してねぇだろ!謝るとか有り得ねぇし!」

「悪い事してないって言うけど、あんた西條さんに何したか分かってんの?!」

「ムカついたから胸ぐらつかんで玄関のドア蹴ったんだよ!!」

「それが悪い事なの!!何したか分かってんなら謝りなさい!!」

オカンは俺の手首をさらにきつく握った。

「痛ぇだろが!!離せや!!」

ズキッと手首に痛みが走って怒鳴ると、オカンは一瞬慌てた表情を見せ、スッと手を離した。

あり得ねぇ…。

西條もムカつくけど…オカンにもムカついてきた…。

「あの…」

オカンと怒鳴り合って、しばらくシーンとする中、龍星が顔を上げた。

「ソラは…俺をかばってくれたんだ。だから楓さん…ソラに怒らないで。何もかも、俺のせいだから」
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