ほんとの笑顔が見たかったんだ
「はい?」

西條達は一斉に振り返った。

「謝罪して下さい」

表情を無にして、淡々と言うオカン。

「植原さん、あなた何を言って…」

「謝れって言ってんだろうが!!!!」

俺を含め、ここにいる全員が目と耳を疑った。

さっきまで西條達に敬語だったオカンが、別人のような口調で睨みをきかし、怒鳴ったからだ。

急に豹変したオカンに完全にビビって、西條達はその場から動けなくなっていた。

「何ボーッとしてんだよ!ドア閉めろ!」

「ちょっと…植原さん?」

「ドア閉めろって言ってんだよ!!聞こえねぇのか?!」

「は、はい!」

西條は、言われるがままに玄関のドアを閉めた。

「あんたら、調子乗りすぎだっつーの!!」

オカンは困惑する西條達に詰め寄る。

「ちょ、オカン、何やってんだよ…」

さすがにやばいんじゃねぇのかと思って、オカンを止めようとした。

でも、そんな俺にオカンは

「止めんじゃねぇーよ!あんたは黙って見てな!」

と、怒鳴る…。

完全にヤバイよな…。

でも今のオカンには逆らえねぇ…。

オカンの言う通りにしとくしかなさそうだ。



「あんたらさー、アタシの可愛い可愛い息子と息子の可愛い可愛い友達の事、バカにしてんじゃねーよ!」

一人一人を睨みながらオカンは怒鳴る。

「“最低な息子”だって?何言ってんだよ!!“最高の息子”だっつーの!世界で一番最高の息子だっつーの!」

なに言ってんだよマジで…。

てか何?誰か乗り移ってんの?

「りゅう君の事、不良とかなに勝手な事ほざいてんの?帰れって何?りゅう君めちゃめちゃ良い子だよ!超優しい子だよ!あんたらみたいに簡単に人傷つけるようなバカじゃねぇんだよ!!言っとくけど、アタシがりゅう君にこの家にいるように言ったんだからな!!」

「"こんな息子で大変"って?全然大変じゃねぇし!大変だって思った事なんて1回もないから!!空が息子でアタシ、超幸せだし!!それに、“感じ悪い”とか何言ってんの?!空はおとなしいだけだし!!どこからどう見たって空は超可愛いから!!」

「空さ、小さい頃から滅多に泣かないんだよね。でもさ、小学生の時、学校から泣きながら帰って来た時が1回だけあったの。理由聞いても言わないし、学校に聞いても分からなかった。でも今分かったよ!!あんたらに傷つけられたんだな!!大人のくせに、小さい子供いじめてんじゃねぇよ!!」



………それからも、オカンの説教は続いた。

俺と龍星は、何も口出さずに黙って見ていた。

最初は、マジでビビったけど…オカンに反抗していたさっきの自分が恥ずかしく思えた。

俺が思ってる以上に、オカンは俺の事考えてくれてたんだな…。

龍星を見ると、目が合った。

お互い顔を見合わせて、俺ら二人は小さく笑った……。
< 63 / 169 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop