ほんとの笑顔が見たかったんだ
俺ら二人は風呂を済ませた後、髪も渇かさずにリビングのソファでアイスを食べていた。

「ソラさ、楓さんがあんな風に怒ったの、初めて見たの?」

バラエティ番組を見ながら、龍星は俺に聞いた。

「うん。マジビビった。」

俺も、テレビの画面を見ながら答える。

「そうなんだ。でも、良いお母さんだよな」

「まぁ…そうだな。…基本バカだけど。」

オカンの事をほめられると、嬉しかった。

"基本バカ"の言葉は、完全に照れ隠しだ。

こんな恥ずかしい事、オカンには絶対に言えないけど…。

「お父さんはどんな人?」

「オトンはオカンよりバカだな。仕事は出来るみたいだけど」

オトン、長らく会ってないよな…。

オトンの事だし元気にやってるとは思うけど。

「…良い家族だな!」

明るく笑う龍星だけど、どことなく切なさを隠しているように見えた。

「俺のお母さんも、俺が小さい頃は超優しかったんだー。お母さんの作るホットケーキ、超うまかった!」

"今はどうなんだよ"って、過去形で話す龍星に聞きたかった。

でも、踏み込んじゃいけない気がした。

だから俺は、

「そうなんだ」

しか、言えなかった。

結局龍星が自分の親の事を言ったのは、それだけだった。

俺は思った。

龍星が抱えているものって…兄貴の事だけじゃなくて、"家族そのもの"の事なんじゃないかって。

「やべー。焼き肉美味そう!」

テレビを見ながら、そんな事を言って笑う龍星を見ると、俺は切なくなった。
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