ほんとの笑顔が見たかったんだ





「樹菜が小学五年生の時の話なんだけどね、この子、マラソン大会の時に派手に転んじゃってさ、棄権になっちゃったの」

「じゅなちゃん、泣かなかったんですか?」

「全然泣かなかったよ。保健室で手当てしてもらったらすぐに外に出て、他の子の応援してたのよ」

「へぇー!」

「この子は"元気"が取り柄だからね」

いつの間にか、ママと龍星君は打ち解けていた。

龍星君と初めて対面した時、ママは彼の見た目に一瞬驚いた表情を見せたけど、次第に話していくうちに、"悪い人じゃない"って事が分かってきたみたいで、気付けば昔の思い出話をするようにまでなっていた。

「あの日、すげぇ寒かったのに、じゅな、ずっと上着も着ないで半袖だったよな。マジ元気すぎだし。つか、ちょっと野性的?」

「ちょっとソラー!野性的ってどういう事?!」

ムッとする私を見て、ソラは笑っている。

ていうか、ママと龍星君も笑ってるし!

野性的とは聞き捨てならない!

ソラって、たまーにこういう冗談を言うんだよね…。

「でも俺はそれくらい元気な子の方が良いと思うよ!」

ソラと私のやり取りを見て笑っていた龍星君だったけど、さりげなくそんな言葉を言ってくれて、ドキッとした。

「ほんと?」

「うん!」

私に笑顔を向けてくれる龍星君。

ダメだ…直視出来ない。

目が合ったら、私、すぐに顔が赤くなっちゃうと思うし…。

でも、こうやって龍星君とまた話せる事が出来て、ほんとに嬉しい。

「さ、そろそろ私も晩ごはん作らないとね!空君、龍星君、ゆっくりして行ってね!」

リビングのソファで私達と談笑していたママは、ソファから立ち上がった。

楓さんはついさっき、晩ごはんの買い出しに行くため、二人より一足先に帰っていた。

「いや、俺ら、もう帰るよ」

"ゆっくりして行って"と言っても、もうすぐ7時になる。

さすがに気をつかったソラは、時計を見て立ち上がった。

"だな"と言って、龍星君もソラに続く。


まだまだ龍星君と話したい。

もっといたい。


想いが強くなって、私はソラと龍星君についつい言っちゃったんだ。


「ねぇねぇ!私の部屋で喋ろうよ!」


って。
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