ほんとの笑顔が見たかったんだ


今から2年前の五月。

パパはこの世を去った…



昔からパパは私に厳しかった。

友達と遊んで帰りが遅くなった時にはとんでもなく叱られたし、勉強に関しても口うるさかった。

だけど、優しい時もちゃんとあったんだ。

だから、どんなに叱られても、私はパパの事を嫌いにはならなかった。



「樹菜…」

毎日通っていた病室で、パパは痩せ細った手で私の頭を優しく撫でた。

以前のパパからは想像出来ないくらいの、消えてしまいそうなか細い声は、今でも覚えている。

「何よパパ!急にどうしたの?」

当時13歳の私には、パパに残されている時間が長くない事は分かっていた。

ほんとは少し気を緩めたら泣いてしまいそうだった。

でも、パパの前では泣きたくなかった。

ずっと笑顔でいたかった。

だから私は無理矢理笑った。



「大きくなったなぁ」



そう言って、パパは目を閉じた。

安心したかの様に、眠った。

最初は、ほんとにただ眠っていただけだったんだ。

でも、私は"これが最後なんじゃないか"って、なんとなく予感はしてた。



そして予感は的中した。

数時間後、パパは遠い所へ逝った…。
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